教職員向けの「教育対象暴力」という書籍を購入して読む。
児童生徒の親からの理不尽なクレームに対する対処がテーマとなっている。
教育現場の疲弊もあるだろうが、
1、教職員に、子供の事件事故に対する「予測可能性」が無ければ責任を負わなくてよい。
2、教職員の勤務時間を超過するような「理不尽な要求」には弁護士を介入させるべきである。
と言った内容が、事例を変えつつ繰り返し記載してある。
実務書として現場で混乱しがちな事例に対し法的な視点を示したことは意義があると考える。
しかし果たして、この「法的な見解」を教員vs親の間に、簡単に持ち込んで良いものだろうか。
バッサリと「法的に理不尽である」と切り捨てられ、対応の窓口となった弁護士としか話せなくなった親と子供は、教育に不信感を持ち反応がより激烈なものになるのではないだろうか。
さらに、平時から、事件事故に対する「予測可能性」を教職員に対して発生させるために、些細なことでも内容証明郵便などで学校に通知する、などのことが多数発生し、学校が対応に追われる様になるかもしれない。
やがて、社会の教職に対するイメージを根本的に変えてしまわないだろうか。
裁判例を俯瞰すると、教職員が日常より、子供の成長をのために観察を怠らず、それにもかかわらず予測できなかったような事態には責任は追究をしていないように感じる。
ツールとしては有用なのであろうし、ツールとして徹するには焦点を絞る必要があったのだろう。
しかし、教職員と親が「子供の成長のため」という本来的な教育の目的をおろそかにして、法的な部分にのみフォーカスすると、当然ながら責任を免れ、あるいは責任を負わせるための要件(事実)のみを獲り合う事に汲々とすることになりはしないか。
ツールを使う側のモラルの重要性を感じる本だった。
母親が亡くなり、相続人は兄弟のみ、と言う相続の相談があった。
戸籍収拾の困難と言う問題の他に、兄弟仲があまりよろしくないという問題があった。
しかし、資産内容はあまり大きいものではなく、「(遺産分割調停のような)大事にしたくない」とおっしゃる。
兄弟での話し合いもできず、何とかしなくてはという想いは双方ありながら、何年も放置されているようだ。
そこで、法律を盾に堅い話をするのではなく、ご兄弟から個別にお話を伺った。
どうも、兄弟間で話ができなのは、兄の母親に対する感情によるものらしかった。
長男として、(本人から見ると)厳しくされ、愛情を感じることができなかった。対して弟はあまりプレッシャーを加えられず育った・・・
ひたすら、そんな兄の話を聞く・・・
一通り、2時間ほど「親に対する不満」の話を聞いた後で、タイミングを見てこんな話をした。
高度経済成長の時代、「親」だった人は焦りをもっていた。
家制度がなくなり、核家族になるなか、家事育児を代わってくれる大家族はなくなり、他方で、TV・洗濯機・エアコン・自動車・マイホームを買わねばならない、「人並み」にならねばならない・・というプレッシャーがあった。
子供たちに対しては、愛情を目に見える形で与える間もなく、「いい高校、いい大学、大手に就職」とプレッシャーをかけてしまった。
だから、今、「親」に対する処理できない感情を持っている当時、子どであった大人が相続の問題に直面しているのではないか・・・
面談の後は少し和らいだ語調になっておられた。
その後、遺産分割協議はスムーズに進行し、登記も無事終了した。
相続、共有物分割、境界、空家、ゴミ屋敷、マンションの迷惑住人、近所トラブルなども、こんな小さいけれども深刻な感情のもつれが解決を阻害していることがある。
当事者達には、「話を聞いてほしい」「(理想の親のように)自分を受け入れてほしい」という強烈な「想い」がある。
この「想い」は、その相手方にとってはときに「甘え」と紙一重な「受け入れるいわれのない迷惑なもの」ではある。
しかし、この「想い」をできるだけ吸収することで、可能な限り穏やかな解決を心がけている。
法人より「会社の遊休地を賃貸に出している。この土地の売却を考えているが、注意すべき点を教えてほしい」と言う相談をいただいた。
遊休地は売れる時に売っておきたいが、それまでは賃貸に出して収益を得ておきたいという意図である。
評価証明書の金額の半分が140万円を下回ることを確認して相談に応じる。
この場合、一番の心配は、退去である。
A 契約を都合良く打ち切ることができるのか?
B また、退去がスムーズに進むのか?
契約書と現地の写真を見せてもらった。
資材置き場としての契約であり、期間は1年であり次月に今季の契約が終了するようだ。
資材と共に車両とコンテナ(ハウス)が設置してある。
まず、契約を更新する際に
① 一時目的賃貸借(借地借家法25条)として明記すること。
② 契約期間を1月間~3か月間などと短く区切り更新すること。
③ 資材置き場としての使用であることを明示すること。
④ 何トン以上の物品を置かない、など保管物の制限を設けること。
⑤ 契約終了時の退去までの時間について制限を付けること。
⑥ 退去時に残置物がある場合、1月保管しその間に申出が無い場合は所有権の放棄とみなされることにあらかじめ同意する条項を設けること。
⑦ 契約時点で存在するコンテナなどについては簡単に撤去できる動産であることを表明保証してもらうこと。
⑧ 契約スパンが短いので、極力A4紙一枚に収まるようにすること。
などを提案する。
Aの心配に対しては、契約のスパンを短くすることで対応し、Bの心配に対しては、一時使用目的賃貸借であること・使用目的と退去期間の制限・所有権放棄条項・動産であることの表明保証などで、万が一強制執行に至った場合の手間を極小化するようにした。
資材置き場としての一時使用とはいえ、何トンもあるような重機を放置されると判決を得ても執行に費用と手間が掛かること、退去費用が賃貸人負担となった場合に備え、保証金条項を挿入することも考え得る事を説明したが、同時に、「売却までは借りてほしい」という賃貸人の意図とこの土地を借りる側の力関係でもあるも説明する。
当職が契約書の作成と契約の立会説明までを依頼されることもある。
平成27年9月15日、最高裁判所第三小法廷において、目を引く判断が出ました。
過払い金が存在する状態で、これに触れず、特定調停(借金の整理に特化して債権者と債務者の調整を行う調停)が成立し、残債務を調停結果に従って弁済したとしても特定調停は残債務や過払い金を確定させる場ではないから公序良俗に反せず有効である。
他方、この特定調停の結果に付属するいわゆる清算条項(当事者の間には、調停結果の他に債権も債務もない)の効力も過払い金に及んでいない、とする判断です。
つまり、過払い金を見過ごして特定調停を成立させたとしても、サラ金業者やクレジット会社に対して過払い金の支払い請求ができるという訳です。
平成15年4月1日の司法書士法改正により特定の能力考査に合格した司法書士には140万円までの経済的な利益について弁護士と同じく、訴訟と、訴訟外での任意の交渉において訴訟代理権が与えられました。
この時までの司法書士は、司法書士に明治の時代から備わっている「依頼者のために裁判所に提出する書面を作成する」という仕事を通じて多重債務に陥った人々の支援を行っていました。
当時、一部の弁護士・司法書士以外、あまり多重債務者支援に熱心ではなく、私の居た事務所には、近隣の弁護士・司法書士から、「書面作成による処理」として引き継いでくれ、との依頼がよく来たの思い出します。
ただ、この当時、多重債務者が司法書士にこの裁判所提出書面作成を依頼しても、サラ金業者の苛烈な取立は止まりませんでした。
そんな中、司法書士と依頼者は特定調停を多く申し立てました。当時の指導指針により裁判所に何らかの手続きが継続すると取立が止まったからです。
しかし、特定調停の場においては、過払い金など話題にされず、サラ金やクレジット会社の主張する残債務額を生活を破たんさせないで、どうやって分割弁済するか・・のみが話し合われました。
そして、特定調停が成立すると決まって「調停内容の他に債権債務はない・・・」との清算条項が書き込まれました。
これのせいで過払い金が支払われないのは公平ではない・・・と考えていましたが、最高裁は特定調停をひっくり返さず過払い金の実を請求し、本来あるべき債務者の元に払い過ぎた資金を戻す道を作りました。
かつて特定調停をした依頼者の方は一度、司法書士事務所に連絡してみてください。どの事務所でも構いません。
時効の問題なども絡みますが、払い過ぎた資金が戻る場合もあります。
自分がいない時代と向き合うのはつらいものですが、遺言を遺すことがトラブルを防ぐことに直接繋がります。
また、遺言という制度がある以上、利用すべきであり遺された者たちへの義務とも言えます。
公的な相談会などに参加すると、「ウチは争うほど財産がないワ」と遺言を自分に関係の無いことにしてしまう人もいます。
しかし、相続に関する紛争が起きるのは、遺産が数千万円までの場合が多いとの統計もあり、これは司法書士の実務的感覚にも合致します。
億を超えるような遺産を持つ人は法律家に監修を依頼して遺言を作るでしょう。
そこまで遺産が大きくない場合は、被相続人が遺言など作らず、争いが起きてから、争っている相続人が費用を抑えようと司法書士に家庭裁判所へ提出する書面の作成のみを依頼するのでしょう。
そこで、そんな相談会では自筆証書遺言を勧めています。全文をボールペンで手書きし、日付と署名をし印鑑を押すことが要件です。
印鑑は認印でもよいのですが、被相続人が作成した事が分かるように実印を押印し印鑑証明書をつけておくべきです。
遺言を遺す相手が推定相続人のみである場合が多いので、「相続人である何某に~の不動産を相続させる」というよな書き方で割り付けていきます。
より複雑な内容や、遺留分の心配がある人は、司法書士などに書いた遺言を持参して相談し、添削を受けても良いでしょう。
他方、相続人の立場で相続を見ると、被相続人の遺言がない場合、相続人は遺産分割協議をし、まとまれば書面(遺産分割協議書)にして実印を押印し印鑑証明書を添付します。
これと戸籍を併せて登記や銀行の手続きに使用します。
(手続きに使用できる遺産分割協議書となっているかを確認するために、事前に司法書士に相談しても良いでしょう)
これがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てることになり、調停がまとまらねば審判になります。
遺産分割の調停及び審判は、通常の訴訟のように、「証拠で対等に争う」という対審主義の性格が強い手続きです。
したがって、推定相続人としては、遺言がない場合に備えて「証拠」を確保しておく必要があります。
たとえ、遺産分割調停や審判に至らない場合でも、遺産分割協議において証拠があることを告げて主張すれば、根拠のある主張として他の相続人に受けとめられやすいでしょう。
ポイントは以下の通りです。
1 寄与分に関して(寄与分とは)
被相続人の財産の維持・増加に「特別の寄与」をした場合は、この「特別の寄与」に相当する部分を遺産から先取りするというものです。
「特別の寄与」の寄与である必要があるので、親族なら当然行う介護、病院への送迎、同居、見舞などは「特別の寄与」になりません。そこで「特別の寄与」であるならその証拠が必要
になります。
例えば、被相続人の長男の妻が介護をしていた場合、被相続人が自立困難であったこと、介護の様子、無償で介護していたこと、介護にかかりきりであったこと、などの証拠を寄与分を主張する相続人が調停などの場に提出する必要がありますが、これらは後になって収集しようとしても困難が伴います。
日記をつけ、要介護の判定資料や領収書などを張り付けていくと良いかも知れません。
2 特別受益に関して(特別受益とは)
相続人が被相続人から生前贈与、遺贈を受けた場合、「特別受益」として特別受益を得た相続人の相続分から特別受益の部分をマイナスします。
特別受益を得た相続人に対して他の相続人が「特別受益があったから相続分を減らすべきだ」という主張も証拠が必要です。
問題になるのは①生計の資本として親からいくらかずつ貰っていた、②親に借金の肩代わりをしてもらっていた、などです。
金銭をもらう側と渡す側以外には情報が出ることが少ないのですが、録音や通帳の写しなどが手に入るのであれば入手し、親兄弟との会話を日記にして証拠とつながるようにしておくと
いでしょう。
3 横領
比較的よくある相談が、「親の介護をしている兄弟が必要以上に親の口座から金銭を引き出し使っている」というものです。
このような話が出るようになると、相続発生後も「私に介護を押し付けて」という意識と「親をないがしろにして金を引き出した」という意識がぶつかり合い、きちんとした金銭管理が
あったとしてもなかなか遺産分割協議がまとまらないようです。
もし介護をされている人に認知症などがあるなら後見制度の利用を考えるべきで、しかも後見人には帳簿をしっかりつける司法書士などのプロを選ぶべきでしょう。
介護をする側は、司法書士に財産の管理を任せ、身体的な介護に徹することで「親をないがしろにして金を引き出した」という疑念を払拭することができます。
もちろん身体的な介護が「特別な寄与」にあたる場合は、証拠になるような記録を残すべきでしょう。
《土地の境界≒筆界》
筆界特定制度とは、二筆(ふたふで)の土地の境界(筆界)を法務局が探索し認定する制度です。
土地は、筆ごとに筆界で区切られて所有権などの権利の目的となり売り買いの対象になります。
この筆界は、明治政府が土地から租税を徴収するために、土地を権利の対象となるように区分したのが始まりです。
すなわち、筆界は公的なものであり、民間人がこれを動かすには、分筆と合筆を行うことが必要になります。
しかしその当時の測量の制度は低く、所有者が時代とともに変わっていくにつれ図面上の筆界と土地の所有者の認識が整合しないこともあります。
また、所有者など土地の使用者の認識の違いが土地の使用方法に反映され、実際の筆界と異なる線を筆界と認識してしまい本当の筆界が分からなくなっている場合もあります。
(もともとあるミゾが筆界だったものが、これを埋め立てわからなくなってしまった・・・・など)
従って、長年筆界とずれた位置を筆界と考えて他人の土地を占有し、塀までたててていた・・・ということもあり得ます。
このような場合は、本当の筆界をはっきりさせたのちに「今ある塀の位置は実際の筆界とずれているので、すぐに取り壊すことはしないが、将来取り壊すときは本来の筆界の位置に設置する」などの和解を隣地の所有者の間で行うことがありますし、また「他人の土地を長年占有してきたのでその部分を時効取得した」としてこの時効取得した部分の土地を分筆して所有権移転登記する場合もあります。
いずれにせよ問題解決のためにはそもそもの筆と筆との境である筆界が現地のどこにあるのかをはっきりさせる必要があります。
(和解をするにしても筆界の位置がわからなければ話が進まないことがあります)
土地家屋調査士が土地売却の前提として隣地所有者から依頼を受け、「境界立会」を求める場合がありますが、ここでこのような和解が成立する場合もあります。
《筆界の公的な認識》
このような和解が成立しない場合に公的な筆界の現地での位置を公的にはっきりさせる方法には①筆界確定訴訟と、②筆界特定手続とがあります。
①の筆界確定訴訟は、裁判所における民事訴訟として筆界の現地での位置を司法判断により確定するもので、一審・二審・三審と訴訟が続き時間がかかる可能性があります。
②の筆界特定手続は、土地に関する登記をつかさどり、筆界に関する図面も保管している法務局の筆界に関する専門登記官が、筆界の現地での位置についての公的な見解を当事者の申請に答える形で述べるもので、法務局ごとにおおむね半年から1年以内の処理時間が定められています。
なお、②は行政である法務局がその認識を述べるもので、①の司法判断により覆る可能性がわずかですがあります。(三権分立)しかし、専門家である法務局登記管の判断を司法が覆えす可能性は少ないと言えるでしょう。
筆界は図面上の筆界を現地で復元する作業ですが、筆界特定手続では、その図面作成者の意思や認識、これに影響を与えて当時の所有者や関係者の意思・認識を確認していくことが必要になります。
そこで、筆界特定手続では、当事者に意見・主張とこれを裏付ける資料を提出する期日(意見聴取等の期日)が設けられていますので、ここで充分に主張と資料の提出を行う必要があります。
《筆界特定手続きの代理人》
筆界特定手続において、申請を行い、このような主張・資料提出を行うことは、訴訟と同じく本人で行う事が原則です。
他方、専門家(司法書士・土地家屋調査士・弁護士)に代理人を依頼することも可能です。
※ 簡易裁判所で訴訟代理を行うことができる司法書士は、筆界を境に隣接する両土地の固定資産税算出の元になる評価額の合計が5600万円までであれば筆界特定手続の代理人となることができます。
《筆界特定手続きの費用》
・収入印紙で法務局へ納める手数料
問題となる筆界を挟んで存在する二筆の土地の固定資産税算出の元になる評価額の合計額÷2×0.05により算出される数字に応じて金額が定められています。
例:評価額が3800万円と1800万円の土地の筆界特定では9600円
・手続き費用
法務局が測量を行うための費用で、数十万円程度となります(土地の広狭等により異なります)
※筆界特定手続きは、隣地所有者が行方不明の場合、認知症など意思能力がない場合、なども申請することができますが、この場合、申し立てた側が手続き費用の全額を負担することになります。
隣地所有者と共同で申請する場合は、平等割で負担することになります。
・代理人の報酬と謄写等の費用
《筆界特定手続きを利用する場合の例》
以下のような場合に利用しやすい手続です。
・土地売却・分筆・合筆・建築の前提として境界立会を求めたが、隣地所有者が①立会を拒否する、②理不尽なことを主張する、③行方不明である、④認知症である、ような各場面。
・隣地所有者間で筆界がはっきりしないが、境界確定訴訟まで行うつもりもないような場面。
・逆の境界確定訴訟の有力な証拠として筆界確定の結果がほしい場面。
2006年5月施行の会社法により有限会社が新規設立ができなくなり、他方で株主の権限に差異を設ける種類株式と会社の組織構成の多様性が認められました。
かつて中小企業といえば有限会社でしたが、この会社法により様々な企業ニーズに合わせることができる株式と組織の構成が可能になりました。
《有限会社》
例えば、旧商法下で認められていた有限会社は、現行会社法の元では特例有限会社として
①株主総会・取締役・監査役のみを機関として持つ、
②監査役は会計監査のみを行う。
③役員に任期はない。
④計算書類の公告を行わなくて良い。
⑤株式には株主が株式を取得する場合を除き、譲渡に制限がある。
などの特色を持ち、中小の企業において利用されてきた有限会社の形態を維持していますが、新規にこれを設立することはできません。
しかし、以下のように特例有限会社と同じような取回しの会社を設立することもできます。
①株主総会・取締役・監査役のみを機関として持つ。
→定款でこのような機関設計を行う。
②監査役は会計監査のみを行う。
→定款で同様の定めを行う。
③役員に任期はない。
→株式の全てを譲渡制限株式にすることで取締役と監査役の任期を10年とすることができる。
→定款により役員選任解任権付株式を発行し、役員の地位の安定化を図る。
④計算書類の広告を行わなくて良い、
→定款で官報公告と日刊紙による公告を公告方法として選択すれば貸借対照表の要旨の広告で足りる。
⑤株式には株主が株式を取得する場合を除き、譲渡に制限がある。
→株式に定款により譲渡制限規定を設ける。
このように、2006年5月施行の会社法では、大企業のみならず中・小規模の企業や、存続期間の長短を問わず、ニーズに応じた設計が可能になっています。
《事業承継に利用する場合の簡単な例》
例えば職人さんが独立し、その後ビジネスがうまく行き、収益が増えて法人成りしたような場合を考えると、株主は法人成りした際のこの職人さんとその家族くらいの場合が多いでしょうから、機関設計は当の職人さんのみを取締役とするシンプルな場合があると思います。この場合でも、銀行などからの融資を想定する場合には、貸借対照表・損益計算書などの信用力を上げるために会見参与を設置して税理士さんに就任をお願いする場合もあるでしょう。
このような会社は株式の全てに譲渡制限を設けるのが普通ですが、この職人さんの保有株を拒否権付の株式にしておけば、その後、従業員や技術を受け継ぐものが増えて、この人たちに株式を引受させても、経営支配を行うことができます。
また、この職人さん以外の株式を議決権を制限された株式にしておいても、類似の効果が発生します。
さて、この職人さんが、後進に会社を譲る場合を考えます。
後継者には議決権の制限されていない株式を取得させ、経営を行わせます。
他の株主には議決権の制限された株式を持ってもらいます。
前経営者の職人さんは拒否権株をもち、仕事をしながら、後継者が判断を誤りそうな場合にのみ拒否権を使います。
そして後継者が安定した経営を行えるようになった暁には拒否権株を譲渡します。
※ すでに株主に保有されている株式の内容を変更し議決権の制限された種類株式などの種類株式にすることも可能ですがこの場合は、内容を変更される株式を持つ株主全員の同意が必要になるなど手続きに困難が伴いますので、会社設立時に定款に盛り込んでおく方が良いでしょう。
《合弁事業のための簡単な例》
合弁事業を行うため二社共同で子会社を設立する場合を考えます。
出資の割合がA社2:B社1であっても役員選任権付株式を使用すれば、役員構成をA社出身1:B社出身1にすることができます。
またA社の議決権を制限する株式を発行することにより、株主総会での影響力を均等にすることもできます。
さらに株式の全てに譲渡制限のある会社では株主の保有株式数にかかわらず、議決権を平等とすることも可能です。
このように、会社の目的、存続期間などに応じて、株式の種類と取締役などの機関を設計することにより細かいニーズに対応した会社を持つことができます。